スピードの魔力
20世紀の神話の一つ、スピードへの異常な嗜好も、よく考えてみると、紙一重に存在する死によっていっそう鮮烈なものとなります。
20世紀はまた人類を破滅に導きかねなかった、大量破壊をともなう2つの世界大戦によっても特徴づけられます。
その後も長い間、原水爆の恐怖は続き、人々は死に直面して生きるほかなかったのです。
ミツオカ 中古車などで今は簡単に購入することが出来る自動車のもつ根本的な魔力は、言うまでもなくそのスピードにあります。
そこに現代人を一瞬なりとも現実から解放し、深く陶酔させる強烈な美学が生まれます。
ペストが流行した中世ヨーロッパで、人々は「メメント・モリ」(死を忘れるな)を相言葉として生きのびようとしました。
逆に、文明も宗教も人々に死を忘れさせる効用をもつ場合もあります。
20世紀人はあまりにも身近な"死を忘れて"生きる道を選んだのかもしれません。
モーター・レーシングは筋書きのないドラマといわれます。
たった一つの判断ミスが、一個のボルトのゆるみが、勝敗の明暗をわけます。
そのような意外性の連続が20世紀の人々の心を強くとらえたのでしょうが、さらに別の理由も考えられます。
戦争に明け暮れた20世紀にあって、モーター・レーシングは、日常性のらち外にある一種の"代理戦争"とみることも可能なのです。